ALSと向き合って生きる。札幌の男性に密着

ALS=筋萎縮性側索硬化症。全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病です。北海道札幌市でこの難病と闘うある男性を取材しました。彼の生きようとする力の源はどこにあるのでしょうか。

山田洋平さん。38歳の時にALSと診断され、2020年で7年目を迎えます。この日は家族で、石狩の親戚の家に出かけました。

山田洋平さん(口文字で伝達)「道中寝ていたので、寝ぼけ眼だが、男前に映してください!」

山田さんには小学5年生を筆頭に3人の子どもがいます。

山田洋平さん(口文字で伝達)「ここだと人もいないから、子どもたちも自由に遊べます。ALSでも子どもの成長が見られるのがいいですね」

山田さんは介助する人が読み上げる文字に、唇や顔を動かして反応する「口文字」という方法でコミュニケーションを取ります。

以前は牛の品種改良に携わる仕事をしていましたが、ある時から足が重くなるような違和感や風邪のような症状が続くようになったと言います。次第に呂律も回らなくなり、病院を受診したところALSと診断されました。3人目の子どもとなる次女が生まれた直後の宣告でした。

妻・五月さん「もう『え?』という感じで、何を言っていいかわからない感じ。本人はうすうす気づいていたらしいんですけど、私はそんな病気だとは全く気付かずに」

当時は帯広に住んでいましたが、幼い子どもたちを妻の五月さん一人で見るのは限界があり、お互いの両親がいる札幌へ引っ越すことになりました。

妻・五月さん「子育ても重なっていたので最初の何年かはまったく記憶にないぐらい大変でした。3人目の小さい子の世話と、徐々に体が動かなくなっていく旦那の世話の両立が本当に大変で」

山田さんがHBCに寄せた手記です。病気が進行していた時期の苦しい胸の内が綴られています。

山田さんの手記「病の進行のスピードは、私や家族の想像を遥に上回るものであり、病気の進行に伴い出来なくなることが増えるにつれて、私の心も荒んでゆきました」

7月、京都のALSの女性患者から「死にたい」と依頼を受け殺害したとして、2人の医師が逮捕されました。山田さんも一度は生きることを諦めかけたといいます。

山田さんの手記「すくすくと育ってゆく末娘を見ながら、自身の無力さに悲観した時期もありました。今思えば、この頃が私のALS生活の中でどん底だったと思います」

4年前には自力での呼吸が難しくなり人工呼吸器をつけるかどうかの判断を迫られました。実はALS患者の7割がつけない選択をするといいます。山田さんは「人工呼吸器」をつける選択をしました。理由は「家族のため」です。

山田洋平さん(口文字で伝達)「体が動かずとも話すことができずとも、生きていれば家族とその瞬間を共有することができます。ALSはそんなに大きな問題ではない」

そしてもうひとつ、山田さんに生きる力を与えてくれるものができました。2019年5月、みずから訪問介護事業所を立ち上げスタッフ6人を抱える代表になったのです。

山田洋平さん(口文字で伝達)「子どもたちがいずれ私を友達に紹介するときに、私自身が恥ずかしくないような生き方をしなければならないという思いで会社を設立しました」

ALS患者のコミュニケーション支援をするアイケアほっかいどうの佐藤さんです。訪問介護事業所をALSの患者自らが立ち上げることには、介護体制の確保という意味でも大きなメリットがあると言います。

iCareほっかいどう・佐藤美由紀さん「事業所を立ち上げることで、まずは自分のための介護体制を、患者自身が介護する人に教えながら育てていくことができる」

一方で、患者の介護体制には格差があると言います。

iCareほっかいどう・佐藤美由紀さん「事業所を自分で立ち上げるとかそういうことができる人は、介護体制を整えることができるが、一般の家庭で高齢者の方とかだと難しいと思う」

「ALS患者の視点からヘルパーを育てたい」。近い将来、自分と同じような重度の障害を持った人たちを助けられるような会社に成長させることを目標にしています。

山田さんの口文字を読み取る、介護福祉士の谷口ナナさん「(ヘルパーを)他の人のところに行かせるのがもったいない。それぐらいうちのスタッフは優秀だと言ってる?笑」

介護福祉士・谷口ナナさん「このとおりの感じでいつも褒めてくれることがすごく多いですね。たまに『ここはこうして』ということもあるんですけど、必ずその後『すごくできていたよ』とか褒めてくれます」

妻・五月さん「背中を押さないと何もしてくれない人だったので、これまで大変だったのですが、これからは頼りになるくらい頑張ってくれているので、そのうち車を一台買ってほしいなと言っています。少し妻に貢いでくれと」

山田洋平さん(口文字で伝達)「子どもたちがいても妻がいなければ、おそらく生きることを断念していたかもしれません」

山田洋平さん(口文字で伝達)「私にとって妻は本当に大切な存在であり、心から感謝しています」

愛する家族のため、会社を発展させる夢のため、これからも難病と向き合いながら生きていきます。


《取材メモ》

日本ALS協会によると2018年度のデータで全国ではおよそ1万人(9805人)、北海道では436人の患者がいる。山田さんの場合は6人のスタッフが専従で24時間介護を行っているが、全ての患者が、こういう状態にあるわけではない。山田さんのところで介護スタッフを育てていくことで、ALS患者のケアがわかるスタッフが今後増えていけばいいのではないか。

0コメント

  • 1000 / 1000